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「お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとうございます!」
仕事中、ホテルのレストラン付近を通りがかった時の事だった。
突然店の中から聞こえてきた祝いの声に、俺は足を止める。
視線を向ければ、店のパーテーション越しに数人の男女が語らっているのが見えた。
その中心には初老の男性が、照れくさそうな笑顔を浮かべて、花束を抱えている。
俺はしばらくそこに視線を向けていたが、再び前を向いて歩き出した。
「…別に、俺には関係ないだろう。」
そう呟きながら。


俺には、誕生日がない。
それどころか、両親の名も、顔も知らない。
ただ残っているのは、奴隷として飼われた男女の子だと言う事実と、伊梁という名前だけ。
物心ついた時にはこの組織の『商品』が保管される、牢獄の様な施設で育てられていた。
だけどある時、突然俺の前にやってきた先々代の当主・柳陽緋の手で『離れ』と言われる柳家のプライベートハウスに移された。
そこは古くから妻や妾が暮らす場として使われていて、あの時はヴィエリと呼ばれる、俺が兄と慕った一人の男娼だけが養われていて。
俺はそこで、使用人達に囲まれて5歳まで過ごした。
何故俺がそんなところに連れて行かれたのかは、今となっては分からない。
だけど、陽緋様が殺されて、従弟で次の当主となった竜風様によって離れから出された時に、初めて見た大人達から「陽緋様の男娼と肌の色が似てる」と言われたのは、今でもよく覚えている。


ホテルの最上階にある総経理室に戻り、俺は仕事の続きに手を付けようとした。
机の上には基本的に仕事に関わる物しか置いていないのだが、ただ一つだけ、誰が見ても仕事では使わないだろうと分かる物が置いてあった。
円錐形の台座に置かれた、青い石の付いた指輪。
俺が離れにいた時に、ヴィエリ兄ちゃんがくれた物だ。
俺と同じように離れで暮らしていた彼に、俺は週に数回、陽緋様と一緒に会っていた。
ヴィエリ兄ちゃんは言葉が話せなかったり、体が弱かったが、優しくて、聡明で、少ない道具で俺にいろいろな遊びを教えてくれた。
その思い出は今でも鮮明に残っていて、ある時、部屋に帰りたくないと泣いた俺を見かねて、苦笑いを浮かべながら手に握らせてくれたこの指輪は、今でも俺の大事な宝物だ。
「…兄ちゃん。」
仕事を始めたかったが、頭の中でぐるぐると、先程の誕生日会の光景が巡って仕方なく、俺は指輪に声を掛ける。
だけど、次に言おうとした言葉が女々しい泣き事だと気付いて、俺はまた唇を噤んだ。
ヴィエリ兄ちゃんは、俺にこの指輪を渡してしばらく後に、陽緋様と一緒に殺された。
今もその犯人は分かっていない。
この指輪は兄ちゃんの形見でもある。きっと彼は俺の事を見守っている。
「……。」
紆余曲折があり、紫鱗曾の当主となった今、たかが他人の誕生日が羨ましくなったぐらいで音をあげるなんて、情けない。
俺は弱音の代わりに短く息を吐くと、傍らにあったパソコンに目を向けた。
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Author:川野麟&叶助
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