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大きな都市の中には、必ず日の当たらない場所がある。
ここ、香港の街もまた、占領統治下の時代から飛躍的に進化し、現在も経済特区として発展する中で、影の世界を大きくしていた。
古くは阿片窟から始まった紫鱗曾の裏カジノや闇オークションも、社会の流れに乗り、進化した形で、今やその規模は中国国内だけに留まらない。
だが、大きくなった組織には必ず敵というものが存在し、必ずどこかで衝突する。

ましてやそれが、十数年規模の因縁になる事など、珍しくはない話だった。


「では、報告させて頂きます。」
香港郊外、柳家本邸。紫鱗曾の総本部としても機能するその屋敷に、緋蓮、梁含め、組織の主要幹部が全員揃っていた。
その幹部達の注目を一身に受け、日に焼けた男が書類を片手に声を上げる。
彼は普段貿易部の営業マンとして東南アジアで働いている、れっきとした紫鱗曾の構成員だ。
営業マンとしての顔を持ちつつ、本国といわゆる現場とを繋ぐ伝達役“口”を担っている。
先日、その構成員から梁の元に連絡があり、急遽紫鱗曾の上部会議を徴収したのだ。
「先日、インドネシアのスラム街にて、中規模の衝突がありました。相手は東南で薬取引を仕切る組織。規模はそこまで大きな相手ではなく、衝突事態は沈静化しております。しかし、どうも我々の縄張りを狙っている様で、今日現在までで“足”に3回、“耳”と“口”に17回以上の攻撃が仕掛けられています。」
“口”の構成員が数字を示した瞬間、幹部の間にどよめきが生まれた。
一方で、緋蓮と梁はいたって涼しい顔をしている。
だが、その目だけは、まるで獅子か猛禽かと見紛う様な、強い光を宿していた。
幹部達がそれに気付いたのか、次第にどよめきは収まっていく。
「……被害額はここ十年の外部との抗争の中ではトップに届きそうな勢いです。我々東南支部も手を尽くして居ますが…──」
男がそう言って、悔しそうに表情を歪ませた次の瞬間。
「そんな言い訳はいい。」
梁が口を開き、言葉を制した。
「俺に報告した内容を言え。ここは感想文発表会場じゃないぞ。」
「し、失礼致しましたっ。」
褐色の瞳に横目で睨みつけられ、“口”は声を裏返らせる。
そして慌てた様子で書類を二、三枚捲り、目を落とした。
「実は…先日、“耳”が相手の本部に潜りまして、奴らの資金源や行動範囲の割り出しを行いました。その結果……ここ香港に、重要な拠点がある事が分かりました。しかも…Lanciaの残党が資金集めに関わっていました。」
Lancia、という単語を聞いた瞬間、先程よりも大きなどよめきが起こった。
が。
ドン、という机を叩く音と共に、周囲は一瞬で静寂を取り戻す。
「続けて。」
机の上に踵を叩き付け、足を上げた姿勢のまま、緋蓮が笑顔で口にする。
ただ、目は笑ってなかった。
「調査によると、Lanciaが関わり始めたのがここ最近の様です。我々の縄張りを狙っているのも、恐らく、21年前の殲滅への報復行為の一環かと思われます。」
“口”はそう説明を終えると、緋蓮と梁の方に向き直る。
「私からの報告は、以上となります。」
「うん、ありがと。ご苦労様。」
緋蓮は笑いながら労いの言葉を口にし、一方の梁は自分の左の席に座った幹部に目を向けた。
視線が合うなり、その幹部は小さく頷き、腰を上げる。
「では、続きまして私めの方から、香港にあるという相手の拠点について、ご説明させて頂きます。」
そう口にした彼の名は、林燎範。貿易部のアジア・オセアニアにある支局の総纏めをする、所謂梁の右腕と言われる存在であり、紫鱗曾の諜報部のトップを担う人間だ。
「我々の調査によると、本拠地と思われる施設は香港南西部の総合ビルの内部にある様です。表向きは外資系の茶葉問屋ですが、総経理と監査役がLancia関係者でした。数年前の殲滅作戦で取りこぼした者達の様です。」
燎範の説明の間、他の幹部達がざわめく様な事はなかった。
皆真剣な顔で、彼と、その隣にいる二人の方を向いている。
「奴らの行動範囲は主に港と本社の建物だけですが、裏口を張っていた所、複数の東南系の人間の出入りもありました。恐らく、伝達役の人間が幾つかの組織にかまを掛け、我々と敵対する様に仕掛けているものと考えられます。」
彼の説明の後、梁がふぅ、とため息を吐き、説明を次ぐ。
「まぁ貿易側で調べられたのはそんな範囲だ。まだ完全に尻尾が掴めた訳じゃない。」
梁はそう言って、もたれていた背もたれから上体を起こし、机に肘を付く。
「ただ、敵はこの香港にいて、確実に俺達の牙城を狙ってやがる。…いつ衝突があるか分からない。」
指を組み合わせた手を口元に添え、梁は目の前に座る幹部達27人に視線を巡らせた。
「各自、気を抜かないように。…死にたくなかったらな。」
その一言に弾かれる様に、幹部達が決意に満ちた顔で一斉に頭を下げる。
だが、梁の隣に座る緋蓮だけは、不満そうな表情を浮かべていた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「梁。」
会議が終わり、各々の部屋に戻ろうと屋敷の廊下を歩いていると、梁の前を歩いていた緋蓮が突然声を上げた。
「もう相手が分かってるなら先制攻撃で潰しちゃえばいいじゃん。悠長な事してたら足元掬われるか、逃げられちゃうんじゃないの?」
相手が相手なんだし、と、緋蓮は天井を仰ぐ。
いつも不敵で、恐れるものがなさそうな彼がそんな発言をする事自体が珍しいのだが、逆にその事は、如何に紫鱗曾とLanciaという組織の間に跨がる因縁が深いかを如実に著していた。


シチリアンマフィア・Lancia。
中世に繁栄した騎士団を母体とするイタリアの商会系マフィアで、ヨーロッパの経済と工業資源やエネルギーを牛耳っていた組織だ。
かつて、19代目頭領・柳陽緋の海外進出事業によってその牙城に傷を付けられた事に激昂し、紫鱗曾と全面対決姿勢を取る。
その結果、今から21年前に紫鱗曾で最も“完璧”を求める20代目頭領・柳竜風…緋蓮の父親によって、組織を纏めていた複数の家系諸共根絶やしにされた。
しかし、騎士団という忠義で動く集団の血を引くだけあり、今現在もLanciaの直接または間接的な関係者達が紫鱗曾に報復せんと水面下で行動している状況だ。


「父上がLanciaを徹底的に潰したのに、何故か奴らはまだ湧いてくる。見つけた害虫は早く潰さないと。」
どんどん増えるでしょ?、と顔を振り向かせて提案する緋蓮は笑顔を浮かべている。
開ききった瞳孔の奥に、猛獣の様相を宿して。
もちろん緋蓮の心情をちゃんと察していた梁は小さくため息を吐き、首を横に振る。
「確かに緋蓮の言う通りだとは思うが、相手がLanciaだからこそ、慎重に行動するべきだ。憶測とは言え、武術に長けてた陽緋様を……、暗殺したかも知れない相手なんだから。」
緋蓮の中にLanciaに対する執着がある理由を、梁は知っている。
元々超完璧主義者だった父親は、叔父が殺された事で心を病み、結果、それまで以上に緋蓮や他の兄弟達に完璧さを求めた。
緋蓮は目の前で実の父に兄弟を殺される様を何度も見ている。
既にその父親も亡くなっているとは言え、緋蓮に植え付けられた強迫観念は失敗は許されないというものにすり替わっていて。
ましてや一族の敵とも言えるLanciaが未だに活動しているかも知れないという事態は、緋蓮にとって決して許される事ではないのだ。
それ故に、緋蓮はいち早くこの事態を収束させようとしている。
だが、焦りの中で立てた計画はどこかしらに穴を作ってしまう。
失敗は許されないからこそ、梁は慎重さを忘れない様に、緋蓮が暴走しない様にと考えていた。
「まずは相手の会社の規模の確認。林の下調べではそこまで時間は掛からなさそうだって話だから、今月中には決着が付けられそうだから。」
だから俺達に任せてよ、と、梁はそう続ける。
その言葉に緋蓮は…
「そっか。梁がちゃんと考えてるならそれでいいよ。信頼してるからね。頼むよ。」
特に言い返す事もなく、笑顔のまま、頷いたのであった。

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Author:川野麟&叶助
・川野麟(小説・ブログ担当)
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・叶助(イラスト・twitter担当)
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