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緋蓮と赤夏は壁一面に荷物が積まれ、狭くなった階段を上り、ビルの3階にあった社長室に通された。
案内役の社員が扉をノックすれば、中から返事がする。
入る様にと促すそれは警戒の色など一つもなく。
油断しきった相手の様子に緋蓮は口元に笑みを浮かべて、案内役が開けた扉の中に足を踏み入れた。
中には社長と思われる男性と、彼の隣にいた幹部クラスと思しき社員がいた。
二人とも、大体40歳を過ぎた年齢だろうか。アジア系、と言うには首を傾げる風貌で、明らかにこの国に古くからいる様子ではない。
「昨日お電話いただいた方がいらっしゃったので、お連れしました。」
「そうか。ご苦労。」
社長の男はそう言って、椅子から立ち上がる。
そして緋蓮を机の前にあった応接用のソファーに座る様に促した。
「突然ご連絡してしまい、申し訳ないです。」
緋蓮は案内された座面に腰掛けながらそう言う。
一方、傍らでは赤夏が部屋にいた幹部社員に名刺を手渡していた。
いつも仕事で使うホテル総経理の名刺ではなく……紫鱗會の名が刻まれた名刺を。
「っ…!」
文面を読むなり、幹部は驚愕に目を大きくする。
「どうかされましたか?」
その様子に、緋蓮は肩越しに彼を見た。
ぎらりと輝く目で。
「……いえ、失礼いたしました。大層な方がいらっしゃったと思ったもので。」
幹部は流暢な広東語でそう答えると、名刺を懐にしまう。
そして自分の上司に目配せした。
やっかいな人物だ、と言うかの様な視線に、社長は何かを察したのか、自身も腰を下したソファーで衣を正した。
「ご用件は…貴社のホテルで、当社の輸入茶葉を使用したいとの事でしたでしょうか。」
「ええ。今日はそのお話と、少しお聞きしたいことがありまして伺った次第です。」
緋蓮はそう言って、自身の膝に肘を乗せ、指を口元で組ませる。
「では先に当社の商品のご案内からでよろしいですかね。」
社長はにこやかにそう言って、目の前の低いテーブルの下に置いてあったパンフレットを手に取った。
どうやらこの社長は営業も担当している様で、淡々と自社で取り扱っているアフリカからの輸入茶葉について説明していく。
その様子にどこか演じている様な雰囲気はなかったが、隣に腰を下ろした幹部の目は緋蓮をじろりと睨むようなものだった。
「…なるほど。では、もし私どものホテルで大量に発注するならば、このインドネシア経由の便で届く茶葉を注文させていただくしかないのですね。」
緋蓮は一通り話を聞き終わったあと、案内されたいくつかの商品の中から、大きな袋に包まれた商品を指す。
すると社長は苦笑いを浮かべた顔で頷いた。
「お恥ずかしいながら、まだ我々も貴社程大きな会社と取引をした経験がない状況でして…。」
「おや?その身なりからして中国の方ではない様ですし、大きな商談の経験もおありの様に見えるのですが。」
「いやぁ、お褒めいただく程ではないですよ。それにまだまだ発展の余地もありまして、とりあえず今はこのルートでのみ大量発注をさせていただいているんです。」
社長が示したルートとはこの様な物だった。
まず、アフリカ内地の産地で収穫され、加工された茶葉を地中海沿岸の契約倉庫に保管。
その後、インドネシアまで一度運ばれ、提携している会社が香港まで運んでくる。
地中海沿岸は、かつてLanciaが拠点にしていた港が多い。同じ様に、彼らの息のかかった貿易会社も沢山ある。
そしてインドネシアは今、貿易部が巻き込まれている衝突の渦中の町だ。
具体的な港町の名前まで聞きだせば、一瞬で黒と分かるだろうが、その様な事をする気は今日の緋蓮にはなかった。
「なるほど…他の商品も魅力的ですし、ちょっと検討させていただきます。決まり次第またご連絡します。」
パンフレットを自分の方に引き寄せながら緋蓮は言う。
そして、ちらりと幹部の方に視線をやると、…切り出した。
「…して、一つお聞きしたい点が。」
「何でしょうか?」
「大したお話しではないのですが、我が社のグループ公司で同じく貿易を管理している部署がありまして、インドネシアで最近面白い話があったと聞きまして。…なんでも、20年程前に壊滅した裏組織がまた暗躍し始めたとか。」
そう言った瞬間、幹部の表情がひきつった。社長の眉尻もピクリと上がり、それまでの人当たりのいいビジネスマンの風体が霞む。
緋蓮は話をやめなかった。
「貴社は東南の国と取引が多い様ですし、何か対策なされているのかと思いまして、その点お聞きしたいんですよ。」
「…なるほど。」
社長はそう言って、口元に手を当てた。
自然な動きに見えるが、その視線は隣の幹部の方に向いている。
「我々は今のところその様な裏組織との関わりはありませんので、特筆して行っている対策としては、海賊相手のものばかりですよ。」
「そうですか。」
社長の上手い交わし言葉に、緋蓮はそれ以上の鎌掛けはやめた。
そして後ろに控えていた赤夏に顔を合せる。
「そろそろ時間?」
「…はい。」
「ん。…では社長。お話しも聞けましたので、我々はここで。」
「お早いですね。いいお話がいただけるのを楽しみにしておりますよ。」
腰を上げる緋蓮に、社長は笑顔で別れの挨拶をする。
緋蓮もそれに、満面の笑顔で応え、幹部の開けた扉から、赤夏と一緒に外に出た。
幹部からの別れの言葉の後、扉が閉まる瞬間、緋蓮はその場でくるりと体の向きを変える。
そして、中に残った二人の男に、笑いかけた。
…その表情は、彼を悪魔と称した者が見たら、自分の表現力は劣っていないと自負できるであろう。
目を大きく見開き、口元を釣り上げた彼を見て、相手幹部は今一番の怪訝な表情を浮かべて、擦りガラスの入った扉を閉めるのであった。
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Author:川野麟&叶助
・川野麟(小説・ブログ担当)
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・叶助(イラスト・twitter担当)
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