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茶葉問屋のビルを出た時、ふと赤夏が足を止めた。
「どうしたの?」
「…あちら、ご覧になれますか?」
問い掛けた緋蓮に彼女が指したのは、沢山の荷物をトラックから下ろす一団。
その箱には茶葉問屋と同じ名前が刻まれている。
しかし、彼女が着目したのは、荷物ではなく、その下ろし手であった。
飛び交う言語はフィリピン語。見た目は中国系に近いが、恐らく華僑の一団の様だ。
「ふぅん…。」
緋蓮は、笑いながら作業をする集団を見つめる目を細める。
「きっとあの中に、現地の組織に繋がる奴も居るのかもね。」
「お調べしますか?」
「いや、いいよ。ちゃんとあの名刺、渡してくれたんでしょ?」
「はい。」
赤夏は素直に頷くが、どこか不安げにも見える顔をしていた。
「じゃあ大丈夫。そのうち向こうからリアクションがあるだろうからね。」
緋蓮はにっこりと笑うと、茶葉問屋の前から離れ、先程も使った車の乗り付けられる街道へと歩き出した。

緋蓮や梁は二種類の名刺を持っている。
一つはそれぞれの仕事で使う、総経理としての肩書きの物。
もう一つは紫鱗曾の当主の肩書きの物。
前者には仕事の連絡先が記されているが、後者にはそれが書かれていない。
何故なら、紫鱗曾という名前が既に連絡先のような物だからだ。
「紫鱗曾に喧嘩を売るなら、受けて立つ。」
そんな意味合いを込めて、緋蓮は赤夏に紫鱗曾の名刺を渡すように命じたのである。

道路の路肩には、赤夏が事前に呼びつけていたリムジンが停まっていた。
緋蓮は運転席を覗き込み、中にいた紫鱗曾の構成員に軽く手を振ると、自分で後部座席の扉を開けて乗り込んだ。
そしてトコトコと車の一番奥まで進み、革張りの座席に腰を下ろす。
……車内にいた先客の視線を一身に集めて。
「何で梁達がいるの?」
緋蓮は自分の隣に座っていた梁に、惚けた様な物言いで訊ねる。
梁は横目で緋蓮を睨むように見るが、ため息を吐いた。
「あれほど勝手な事はするなと言ったにも関わらず、早々に先方に接触した奴を回収に来た。」
「へぇ、そんな奴いるんだ。」
「お ま え の こ と だ 。」
惚ける彼に、梁のこめかみに血管が浮き上がる。
同時に、彼の左前の座席に座っていた芳が呆れた様に額を手で覆い、右前に座っていたメイソンが乾いた笑いを浮かべた。
走り出したリムジンのエンジン音が響き渡る。
「この案件は貿易部が処理すると言っただろ。」
「言ってたね。」
「じゃあ何でお前はあの茶葉問屋に行ったんだ?」
「ホテルで使える茶葉の取引。他はなんにもしてないよ~。」
般若の様な顔の梁の、尋問の様な問い掛けに、緋蓮は飄々とした様子で答える。
勿論、長い付き合いの梁をはぐらかす事など無理なのだが。
「赤夏。」
「はい。」
乗り口の最も近く、メイソンの隣に座った赤夏に、梁は声を掛ける。
「…どの名刺を渡した。」
「……紫鱗曾の物です。」
彼の問いに、赤夏は少し間をおいて、正直に答えた。
その証言に、芳がさらに頭を抱え、メイソンも「あっちゃー」と言わんばかりに苦笑いを零す。
梁はしばらく真顔であったが、ゆっくりと右腕を上げると、隣でそっぽを向いて唇を尖らせる緋蓮に一発拳骨をかました。
「痛い!梁、痛いよ!」
「言うこと聞けない奴には当然の報いだ!完全に相手を煽ってるじゃねぇか!」
「そんな事ないよ!俺煽るような事は言ってないもん!」
「……。」
「赤夏の顔がそれは嘘だと言っているんだが。」
「うわぁぁん。何も言ってないもんー!」
まるで駄々をこねる子供の様に、緋蓮は言い返す。
一介の組織の当主のやりとりとは思えない様子を見かねた芳が、怒りさめやらぬ梁を宥めた。
「まぁまぁ、伊総経理。ご無事だったのですし、よろしいではないですか。」
「芳は甘い。」
「…失礼致しました。」
ギロリと睨まれた芳は、これは言っても無駄と思った様で、それ以上は何も言わなかった。
…と、その時。
リムジンの中に乾いた電子音が反響した。
同時にメイソンがもそもそと動き出し、ポケットからタブレット端末を取り出す。
「もしもし?…あ、綾明ちゃん。」
電話の相手は、社長室に置いてきた綾明の様で。
梁はメイソンに目配せし、壁に掛けてあったヘッドセットを自身の頭に装着した。
それと同時に、芳によってリムジンの中に簡単なスクリーンモニターが下ろされ、メイソンがタブレット端末を繋いだ小さなプロジェクターから光が射す。
「どうした。」
揺れるモニターの向こうで、椅子に座り、パソコンに備え付けられたカメラを覗く綾明に、梁はマイク越しに問う。
『今さっき林さんから連絡があって……あの茶葉問屋が使ってる港の倉庫から、突然荷物が動かされたそうなんです。しかもそれが結構大量で…。』
そう言って、綾明は手元のキーボードを操作して、送られてきたらしい写真を投影する。
そこには沢山の段ボールをせっせとトラックに詰め込む肌の黒い男達が写されていた。
「この写真は大体何時ぐらいのものだ?」
『えーっと…今から30分ぐらい前みたいです。』
「…ってことは、まだ緋蓮達が接触している時か。」
口元に手を当て、考え込む梁の横で緋蓮も興味深そうに写真を見つめ、タブレット端末から零れる音を聞く。
『林さんも言ってたんですが、問屋のビルにこんな量の荷物を詰められるスペースなんて普通ないですよね…。』
写真の向こうからする綾明の声に、思いだしたように赤夏が口を開く。
「そう言えば、先程問屋の方は別の納品を行っていました。」
「え。じゃあこの荷物どこに持っていくんだ?」
彼女の言葉にメイソンが首を傾げる。
一方で梁はさらに難しそうな顔をし、手で隠した口元は何やらぶつぶつと呟いていた。
と、再び車内に電子音が響く。
「私だ。」
今度は芳の電話が鳴った様で、彼はすぐに受話器を取る。
「……そうか。分かった、すぐに向かう。」
短く会話を交わしたのと同時に険しい顔つきになった彼に、梁が声を掛けた。
「…現場か?」
「はい、どうもまた『やられた』ようで。」
「そうか…。」
「申し訳ありませんが、今日中に南に飛びます。」
「ああ。気を付けて行ってこい。」
梁の言葉に、芳は真剣な顔で軽く会釈をすると、途中で下すように告げに、運転席の方へと向かっていった。
『伊総経理。林さんはこの後、諜報部の人達と一緒にこの荷物の行く先までつけるそうです。私も出来る限りの情報収集しますね。』
「ああ。頼むぞ。」
綾明も梁の言葉ににっこりと笑うと、通信を切った。
「…信頼されてるんだねー。」
緋蓮はにやにやと笑いながら、梁に声を掛ける。
一方、梁は表情を崩さず、自分の隣の壁付きテーブルに乗っていたパソコンを起動するのであった。

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Author:川野麟&叶助
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