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その後、ホテルに文字通り強制送還された緋蓮は、梁に勝手な行動をしない様にと釘を刺されて、綾明と赤夏と共にホテル最上階の総経理室に置いて行かれた。
梁は別件の取引があると言って、メイソンと共に再び出かけていった。
ソファーに俯せに寝そべり、肘掛けに顎を乗せ、機嫌が悪いです、というのを体全体で表現する緋蓮に、赤夏が呆れたため息を吐き、綾明が苦笑う。
「総経理。お仕事、ございますが。」
「やる気ないー。」
赤夏の言葉に体をくるりと反転させ、彼は背を向ける。
「どうせ明日やっても片付けられるし、纏めてそこに置いておいてー。」
「…分かりました。」
「それで出来ちゃうのが柳様の怖い所ですよね。」
呆れながらも彼の言うとおりに書類をまとめ始める赤夏に、綾明が感嘆した様に言う。
「梁はずるいよ…。全部自分で片付けようとするんだもん。自分の方がちょっと強いからってさ…。こんなにちんたらして、怪我したらどうするんだよ。」
緋蓮はソファーの背もたれに顔を埋め、ブツブツと呟き始める。
その声はかなり小さく、赤夏や綾明には聞こえていない。
「あぁ…でも梁が怪我したらどうしよう。俺の知らない所で梁が怪我したら、怪我させた奴あぶり出して八つ裂きにしてやろう。それで梁の手当て俺がするんだ。あの時みたいに看病もしてあげよう。梁は俺がいないとダメなんだ。…そうだ、俺が側にいないと。」
一息に言い終えた緋蓮は、上半身をむくりと起きあがらせた。
言葉が聞こえなかった二人には、突然緋蓮が起きた様に見えたのか、驚いた様に彼を見る。
「…ねぇ、綾明。」
「は、はい。」
ゆったりとした口調で訊ねてきた彼に、綾明は背筋を正す。
「梁達ってどこに行ったの?」
顔を上げず、ピンで止められていない前髪で横顔を隠したまま、緋蓮は訊ねる。
「伊総経理は鉱石運搬を委託している公司団との会合に向かわれましたが…。」
「場所は?」
「沙咀道と大涌道の交差点の辺りです。」
「何時に終わるか分かる?」
「いつもの通りでしたら16時には。ですが、明確な時間はちょっと…。」
綾明の説明に、ふぅん、と短く言った緋蓮は、顔を上げないまま、ソファーから立ち上がる。
そして落ちた前髪をくしゃりと上げて、ピン留めで止め直す。
「…総経理?」
「赤夏。車手配して。梁の所行く。」
「え?し、しかし、伊様から勝手な行動は……」
「手配して、って言ってるの。」
そう言った彼の目は、まるで深淵からその先の闇を見ている様な真っ黒な色に染まっていて。
心が弱い者が見たらトラウマになるであろう様だった。
赤夏はその目に少し怖じ気づいたが、この状態の彼に逆らえばどうなるか、彼女は、いや、紫鱗曾の者全員が良く知っている。
自らの意に反し、逆らう者は、誰一人として許さない。
柳家に代々伝わる、威圧を遥かに超えた残忍性は、緋蓮にも受け継がれていた。
「……畏まりました。」
いつもは彼の暴走を諫める役も担う彼女も、こうなってしまった緋蓮は止めることが出来ない。
心配そうな綾明に、軽く目配せで大丈夫よ、と告げ、早々に部屋を出て行こうとする緋蓮の後を追いかけていった。

―――――――――――――――――――――――

「柳様こっちに来んの?!」
会議の最中、鳴り出したタブレットに応答する為、席を外したメイソンは、誰もいない廊下で驚愕の声を上げる。
『もうあの状態の柳様止められるの、伊総経理しかいないですよ…。瞳孔完全に開いてましたもん。』
タブレット越しの綾明の声は、とても不安げだ。
「うーん…、今まだ会議中だからよ、終わり次第伝えるわ。」
メイソンはがりがりと頭を書きながら、会議室の扉の方を見やる。
その向こうでは、梁が笑顔を浮かべて、鉄鋼石会社の総経理達と談笑していた。
「それより、林大兄からなんか連絡あったか?」
『今のところありません。でも気をつけて下さい。そこ、さっきの写真の現場からトラック走らせたら、ちょうど差し掛かる地点ですから。』
「ああ。また何かあったら連絡頼むな。」
メイスンは頷きながら言って、タブレットの通信を切る。
そして大きく肩を落として、ぽつりと「総経理怒るだろうなぁ…」と呟く。
先程は芳という、初等教育の時から二人を知る人物がいたのと、タイミングよく綾明が電話をしてきたので、そこまで大きな説教大会にはならなかった。
しかし今度はどちらもいない、最悪メイソン一人で紫鱗會当主二人の喧嘩の仲裁をしなければならないかも知れないのだ。
「…伊様も怒るとこえーしな……。助手席乗ろっかな。俺。」
この後ホテルの事務所に戻る道中の事を憂い、メイソンはため息を吐く。
そして、その分の空気を鼻から取り込んだ。
…その時。
「……ん?」
空気の中に微かに嗅ぎなれた臭いが混じっていることにメイソンは気付いた。
それは彼の着ているスーツのジャケットの中にも起動すれば同じ臭いを発する物が入っている。
「……。」
メイスンはその臭いが漂って来てる方角を探るべく、辺りに神経を尖らせた。
同時に、会合が終わったのか、会議室から三々五々、取引先の公司の総経理達が出てきては階下へと消えていく。
そして一番最後に梁が出てきた。
「蘇。電話は――……どうした?」
メイソンの顔を見た梁は、その表情の違いに、言いかけた言葉を切る。
「いえ、ちょっと。…撃った後の臭いが。」
そう答えて、メイソンは廊下の端に備え付けられた錆びた鉄の窓枠に近付く。
そして壁に背を向け、膝を折って座ると、大きな体を出来るだけ外に見せないようにして、外のアパートと雑居ビル群を望んだ。
今二人がいるビルは、入口は大きな通りに面しているが今メイソンが見ている場所は裏通りに面している場所だ。
時刻はまもなく夕方に差し掛かろうとしている。
そろそろ、裏の社会の者達が動き出す時間だ。
「……気の所為、ですかね。」
「お前の勘は気の所為で済まない事の方が多いと思うがな。」
戻ってくるメイソンに対し、梁はそう言い返しながら、笑みの様で、…少し不安そうにも見える顔をした。
メイスンは21年前の殲滅活動に若くして参加し、今もヨーロッパで時々現れるLanciaの残党狩りを行っている。
その為、梁の部下の中でも最も戦闘での直感や警戒能力が高い。
故に今回、梁は彼を香港に呼んだのだった。
ただ、一つ問題なのが…
「ま、出てきてくれてもいいんですけどね。撃っていいってことになりますしね。」
彼は、重度のトリガーハッピーなのである。
満面の笑みで放たれたその言葉に、今日一日何も起こらないことを願いながら梁はビルの階段へと向かっていった。

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Author:川野麟&叶助
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