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梁とメイソンは5階建てのビルの最上階までやってくると、先程覗いた窓と異なる、建物の裏の道を望める側の窓に背を付けた。
会議室の階層は3階だったため、死角も多かったが、今度は道全体を見ることができる。
それと同時に、それまでは確認出来なかった人影がいくつもあることにメイソンが声を上げた。
「総経理。あれ、うちの“手”の連中じゃないっすか?」
彼が親指で指す方を見ると、そこには数人の人影が蠢いていて。
組織の実働部員を指す“手”と称されたその一団の中に、梁は見慣れた顔がある事に気付く。
「“手”じゃねぇよ。あれ、…林の部下だ。」
「マジっすか。」
「普段からサプレッサー付きの得物なんかを持ち歩かせているのは、あいつの部下しかいないだろ。」
梁はそう言って、窓枠から身を乗り出し過ぎないように気をつけながら、外の様子を窺う。
味方の視線の先には、木箱や鉄のコンテナが積み上がり、時々その陰や建物の境の小路から、人影が出たり入ったりを繰り返している。
時々甲高い金属音も聞こえ始めたところから、どうやら本格的に戦闘が始まったらしい。
「手を回さないと…公安が来るのも時間の問題か。」
梁は舌打ちと共に辺りの状況を更に把握しようと、眼下に見える範囲に視界を巡らす。
…その時だった。
「!総経理!あそこ!!」
同じ様に眼下の情報を集めていたメイソンが突然声を上げた。
彼が指した先は敵側に近い場所にある小路。戦闘が行われている道と交差する地点には、敵と思われる人影が隠れている。
そして、その人影の死角から、一人、ゆっくりとした足取りで近付いてきていた。
「……緋蓮!」
この場に似合わないスーツ姿のままの緋蓮は、まるで幽霊の様に音もなく敵に近付いているらしい。
敵は全く気付かず、射線上にいる諜報部の構成員に神経を尖らせている。
その隙を、緋蓮が逃すわけがなかった。
手の届く範囲に到達した瞬間、緋蓮の手で何かが煌めく。
同時に、赤い液体が小路から噴き出した。
直後、緋蓮が建物の影に姿を消したかと思うと、同じ場所から敵の潜む方角に弾幕が形成され、甲高い音を辺りに響かせる。
その音が止むと、裏道には静寂が流れた。
どうやら、何が起きたのかを双方が探っているらしい。
緋蓮は再び建物の影から姿を現す。
その手には血まみれのナイフと、大きなサブマシンガンが握られていた。
「敵の武器を奪ったのか。」
梁はそう呟くと、メイソンの方に視線をやる。
銃撃戦を目撃してからか、徐々に彼の顔は裂けるような笑みに変わっているのに、梁は気付いていた。
「総経理。」
そんなメイソンが口を開く。
視線は眼下の戦場に向けられたままだ。
窓枠とジャケットに隠していたハンドガンを握りしめる手が徐々に震え始め、それは全身を侵食していく。
「…なんだ。」
こうなった時の彼に、早い応答をしてはいけないと心の中で戒めながら、梁は間を置いて返事をする。
「行っても、いいですか?」
メイソンは震える声で問う。額からは汗が吹き出し、笑顔はさらに深くなっていた。
普通は許可を求める言葉なのだが、彼の目は許しがもらえない訳がないとでも言わんばかりの自信に満ちている。
それもそのはず。今、眼下の抗争現場には、紫鱗會の当主である緋蓮がいる。
万が一でも彼が命を落としでもすれば、紫鱗會の存亡にも影響を及ぼす可能性があるのだ。
もちろんその事は梁も重々承知であった。
「…分かった。行ってこい。」
梁のその言葉に、メイソンは目を大きく見開く。
「いやっほぉおおおおおおおおおおおおおお!」
まるで遊園地に来た学生の様な叫び声と共に、メイソンは自分達が上ってきた階段の方に駆けて行き、手すりを滑って下りて行った。
その後ろ姿を見送ると同時に、梁は会議の時からジャケットのポケットに入れっぱなしにしていた携帯の電源を付ける。
起動と同時に数件の不在着信履歴が表示され、さらに同じ番号から電話がかかってくる。
「もしもし。」
『あ!やっと繋がったぁ!』
通話を開始した瞬間に安堵した女性の声が響く。
その直後に、今度は違う男性の声が聞こえた。
『伊総経理。』
「林か。」
梁は言葉の主の名を口にしつつ、再び屋外に目をやる。
外は相変わらず静寂に包まれていたが、眼下の紫鱗會の陣営には金髪の大柄な男がいつの間にかアサルトカービンを担いで諜報部の構成員と話している。
さらに緋蓮がいた方に視線を向けたが、そちらには彼の姿はなく、梁は一抹の不安を抱きながらも電話に集中した。
『先程部下から衝突が起きたと連絡がありまして、国に手を回しておりまして。』
「流石、準備が良い。今ちょうどその衝突現場にいる。」
『…綾明から行先を聞いた時、まさかとは思いましたが、やはりそうでしたか。』
燎範は安心した様な口ぶりで言う。
『ですが、伊総経理がそちらにいるという事は、蘇も…』
「もっと悪い。緋蓮もいる。」
『……最悪ですね。』
梁の言葉に状況を察したのか、燎範が部下にあるまじき発言をする。
しかし、梁はそれを咎めるどころか、そうだな、と同意を口にした。
トリガーハッピーのメイソンと、何をしでかすか分からない状態の緋蓮。
普段はそれぞれがヨーロッパと香港という離れた土地にいる為、めったに同じ抗争の現場に居合わせる事はない。
だが、この二人が同じ場面で武器を持った時……
「おっしゃ行くぜぇ!」
梁が過去にあった抗争での惨状を思い出したのと同時。
階下からメイソンの高らかな笑い声と、隠すつもりは全くないと言わんばかりの弾幕の音が響き渡る。
その音はどうやら相手の受話器からも聞こえているらしい。
『総経理。公安側の対処と増援の準備は私と綾明にお任せください。それより蘇と柳様のブレーキを。』
私の部下の手には負えませんので、と言う燎範の言葉の向こうから、よろしくお願いします、と言う綾明の声が聞こえる。
「…分かった。頼むぞ。」
梁は二人の部下にそう告げて、携帯の通話を切った。
そして、窓の外にいる敵を一瞥し、眉間に皺を寄せると、階段を駆け下りていくのであった。

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Author:川野麟&叶助
・川野麟(小説・ブログ担当)
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・叶助(イラスト・twitter担当)
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