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バイオレットドラゴンのブラックジャックテーブルに初老の男性がやってきた。
隣にはくたびれたスーツの青年。
端から見たらカジノ依存症の様にも見えるが、目には精気が宿り、ディーラーの切るカードをじっと眺めていた。

ディーラーとプレイヤーの勝負であるブラックジャックは、ディーラーが有利にゲーム進行が出来る方法がいくつかある。
勿論香港の裏社会で経営されているカジノであるバイオレットドラゴンも、いくつかカードを抜いたりされており、ディーラーもカードを配分する際自分に有利なカードを引けるように操作する。
逆に勝たせる時は配当金の高い勝ち方をさせる。
故に、なかなか勝てないが一度勝ちを経験すると、抜け出せない。そして客は何度も来る。
その様な経営戦略と共に、技術を教えた人間が、今、20年振りにテーブルについた。

プレイヤーの立場から、他のプレイヤーを負けさせる為に。


ブラックジャックは、手持ちの2枚のカードが21以下で、21により近い数字を出した方が勝ちになるゲームだ。
そしてプレイヤー側がカードに触れる事は禁じられている為、いかさまが難しいゲームでもある…のだが。
(…なるほどな。)
秀は傍らの青年の手の動きを見て、思う。
ブラックジャックはチップを提示した後にカードを配られるが、その後に賭け金を増やす事が出来る。
バイオレットドラゴンのテーブルはチップとカードの位置が隣接している為、ディーラーに気付かれずカードに接触する事が可能であった。
しかし、それをするにはマジシャンレベルの指裁きが必要で、難易度はかなり高い。
にも関わらず、隣の青年は真剣な目をしながらも、流れるような指裁きで、自身の袖に隠されたカードと、テーブルに置かれたカードを入れ替えていた。
秀は普通にプレイをしながら、その様子を見ていたが、ふっ、と口元に笑みを浮かべた。
(…勝敗構成の立て方は、俺の現役時代には劣るな。)
そう彼は心の中で呟く。
いかさまは一般的にカードやダイスをいじる事で行われるが、その行為に気付かれない様に、わざと負ける事もしなければならない。
ある意味通常のカジノゲーム以上に心理作戦が必要なのだ。
秀は他のプレイヤーに気付かれない様にチラリとディーラーを見る。
もちろんディーラーは秀の正体を知っているので、目が合うなり、緊張した様に唇を噛んだ。
チップが置かれ、カードが配られる。
プレイヤー全員のカードが開かれ、ディーラーのカードが一枚だけめくられた。
ディーラーのカードはキング。21を超過する確率が高く、不利になりやすいカードだ。
一方で、プレイヤー達のカードは小さな数字の物ばかりで。
その為、プレイヤー達はこぞってチップを増やした。
ただ、秀と、青年を除いて。
カードを求めたプレイヤーに再度カードが割り当てられていく。
青年はその様子をじっと見ていたが、徐にチップを増やした。
その手が、カードの上を掠める。
…次の瞬間、青年の前には3枚目のカードがあった。
他のプレイヤーにカードを割り振っていたディーラーはそれに気付かない。
一方の秀も、それを指摘することなく、自身はチップにもカードにも触れずにいた。
ディーラーの伏せられた2枚目が開かれる。
カードは12。ディーラーの負けであり、プレイヤーの大半が勝利していた。
カードが回収されていく。
そして再びゲームが始まる。
配られるカード。回収されるチップ。
次第にディーラーの手元のチップケースに大量のチップが溜まっていく。
プレイヤーは、勝てなくなっていた。
もちろん、秀も、青年も勝ってはいない。
次第にテーブルからは徐々に人が離れていく。
その時に秀がちらりと青年を見ると、彼の表情はギラギラした闘争心の塊から焦りのそれへと変化していた。
「諦めるなら、今だぞ。」
そこで秀は口を開く。
青年は弾かれる様に顔を上げた。
その瞬間、秀はあえてチップを掛けた。
…手を引く時に、自分の下にあったスペードの1のカードを袖の下にしまい、クイーンのカードを置き換えながら。
青年はそこで目を見開く。
自分達が勝てなくなった理由が、目の前のディーラーではなく、この一人の老紳士だと気付いたからだ。
秀は、自分の手元に来た、勝負に有利なカードを不利なカードに差し替え、ディーラーのデッキの中身を変えていた。
一方のディーラーは、自分用の別のデッキからカードを出していた為、秀の策の影響を受けない。
「…貴様ら、グルか…!」
青年は怒りを露わにする。
その直後、カジノの人混みの中からスタッフがどこからともなく集まり、青年を囲んだ。
内の一人が、青年の腕を掴み、袖に隠されたデッキケースを露わにする。
「グル、と言うが、貴方様もお仲間がいるのでしょう?」
秀はいつものディーラーとしての営業スマイルに戻り、片手を上げた。
その瞬間、カジノのどこからともなく、銃声と悲鳴が響いた。
秀はテーブルに付く前に、副支配人に指示をし、資金を運ぶ役を担っていた男の拘束を命じていた。
そして、自分の指示があれば、殺す様に、とも。
「相手が悪かった。バイオレットドラゴンは、そこらのカジノとは違う。勝負をするなら、命ぐらい賭けられるでしょう?」
芳はそう言って、スタッフ達に青年の拘束を命じた。
「毒食わば、皿まで。味わってもらおうか。若きチャレンジャーよ。」
そう言い放った秀の目は、いつもの優しさや穏やかさなど微塵もなかった。
ギラリと輝く勝負師の目。数々の毒を食らいつくしてきた伝説のいかさま師の姿が、そこにはあった。


「いやぁ。秀凄かったよ!俺でもいつカードすり替えてたか分からなかったし!」
その日の夜。柳家の屋敷で、緋蓮は感嘆の声を上げた。
話の概要を聞いた梁も、関心した様にふぅんと声を上げる。
「毒を持って毒を制したとは、まさにこの事だな。」
「秀がいれば、いかさま師なんて怖くないね!」
そう言って、緋蓮は満足そうに笑う。
彼の腰掛けるソファーの傍らには、血に染まったデッキケースが、降参するかの様に、空の中身を広げて置いてあった。
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Author:川野麟&叶助
・川野麟(小説・ブログ担当)
オフラインが修羅場

・叶助(イラスト・twitter担当)
二次元に生きたい

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