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『継承の儀の執り行いは齢二十の時』
様々な伝統を継ぐ紫鱗曾において、最も重要と言われる、継承の儀。
その典本に一番に記されているのは、次期継承者が20歳になる時に儀式を執り行う様にという事。

それは、数年前のお話。

緋蓮、そして梁が、紫鱗曾の歴史を引き継いだ、その時のお話。



「緋蓮。」
柳家の屋敷の食堂。
巨大な食卓机の端と端に座り、食事を取っていた柳家の親子の間に、珍しく会話が生まれた。
「なんですか?父上。」
緋蓮は手にしていたフォークとナイフを置き、遥か先に座る父親・竜風に笑顔で問い返す。
笑顔、というにはぎこちない、作り笑いで。
「明日から、お前が柳家の当主だ。」
竜風はそれに気付いてか、気付かずか、言葉を続ける。
「明日の継承の儀をもって、俺は前線から引く。薬取引の利益も、ホテルやカジノの経営も、Lanciaの問題も、全てお前が担う事になる。…その覚悟、俺の息子ならば、とうに出来ているな?」
そう問いかけて、竜風はまっすぐ緋蓮を見た。
真剣な眼差し。
先代の陽緋が亡くなった後、西欧でくすぶる抗争を収め、紫鱗曾を中国一の大組織へとまとめ上げた“カリスマ”は、目の前に座る次期継承者を、改めて見極めようとしていた。
一方で、緋蓮はニコニコとした表情を浮かべたままだ。
「当然ですよ。父上。幼い時からずっとおっしゃっていたでしょう?陽緋様が亡くなってから、ずっと。」
「……そうだな。分かっているなら、それでいい。」
今更何を問うのですか?と言わんばかりの緋蓮の応えを、竜風は噛みしめるように頷く。
そして再び、食堂は静寂に包まれた……。


その、1時間後。


「梁!頼むよ!!」
「…だから、無理だって言ってるでしょ。」
緋蓮の寝室。
真っ赤な壁紙の部屋に呼び出された梁に、緋蓮は両手を合わせて頭を下げていた。
その姿に先程父親と対峙していた彼の姿はない。
「俺まだ組織で仕事始めて2年しか経ってないんだよ?!そんな俺が一人で組織纏められると思う?!」
「何言ってんだ。卒業早々部下数人引っ張って、紫鱗曾のシマを荒らしていた密売屋を粛清したり、カジノ改革打診して利益跳ね上げたりした癖に。」
「それとこれとは話が別!俺は梁が一緒じゃないと何も出来ないの!」
泣き叫ばんばかりの勢いでまくし立てる緋蓮に、梁は深いため息を吐く。
「あのな、緋蓮。典本にもあるだろ?紫鱗曾は柳家の者が代々継ぐんだ。俺は柳家の人間じゃあない。それに二頭体制なんて今まで一度もなかったじゃないか。」
机の上に広げられた古い書簡を指しながら、梁は言う。
その書簡には、明日行われる継承の儀の内容が事細かに記されている。
柳家が代々積み上げてきた歴史。
その中に、“商品”の子である自分が関わるなんて許される事ではない。
これまで緋蓮と共に育てられてきた事、紫鱗曾の幹部クラスとして扱われている事だけでも奇跡的な事なのに。
そんな思いと共に、梁は自分の左腹がキリキリと痛み出すのを感じ、そこに手をやる。
「今までに前例がないなら、作ればいいだろ!」
「そういう問題じゃなくて…俺が紫鱗曾を束ねるなんて知ったら、竜風様に何を言われるか…」
そう口にした瞬間、緋蓮の表情が変わった。
「父上は関係ないよ。引退するんだから。」
緋蓮はそう言って、梁の両肩に手をやる。
「梁が当主になれば、父上も文句は言えない。俺が言わせない。誰にも。だから、俺と一緒に紫鱗曾をまとめようよ!」
息を吐く間も与えず、梁の目をまっすぐ見つめる緋蓮。
その目に、梁は、あぁ、マズいことを口走ってしまった、と思う。
緋蓮は竜風に対しての恐怖心と梁に一種の依存心を持っている。
親兄弟を父親に目の前で殺され、梁以外に常に一緒にいた“家族”がいない生活をしていた彼は、次第に強い依存心を梁に持つようになった。
恐らく、二頭制という話も、そこから生まれたものだろう。
梁はそう分かった上で、それでも首を横に振った。
「緋蓮。それは出来ない。」
梁は、キリキリと両手に力を入れる緋蓮に、説き伏せる様に言う。
「別に当主にならなくても、俺がお前を支える事は出来るだろ。皆が納得するなら、秘書でも副総経理でもやるさ。」
梁の言葉に、緋蓮は首を横に振る。
「ダメ。梁は俺と対等なんだ!」
「あー…もう。お前は駄々っ子か。」
「梁がうんって言えばここまで詰め寄らないよ!」
ぎゃあぎゃあと言い合い始めた二人の間を裂いたのは、突然響いたノック音だった。
「…どうぞ。」
一時休戦の合図に、緋蓮は嫌々梁の肩から手を離し、ノックした相手を呼ぶ。
その瞬間扉を開いたのは、全身黒いスーツに身を包んだ、目つきの悪い男だった。
「閃…。」
「伊梁。老爺が離れでお呼びだ。」
扉の向こうにいた男は、静かな声で言う。
その男を、梁は微かに怯えた目で見やり、緋蓮は鬼の様な形相で睨んだ。
「“竜爪”のお前がなんで梁をわざわざ呼びに来たの?」
「老爺の命令だからです。小爺。」
閃と呼ばれた尻尾の様な長髪の男は、淡々とした言葉で返す。
彼は竜風直属の隠密部隊、“竜爪”の長を勤め、竜風から直接下される裏の仕事を担当している。
だが、それだけなら、緋蓮も梁もこの様な態度は取らない。
“竜爪”、特に閃は、梁の事を未だに人身売買の商材として見る人間だった。
「…すぐ、行きます。」
梁が俯きがちにそう答えると、閃は大きく扉を開く。
普段彼が梁に対してこの様な気遣いの様な行動をする事はないのだが、どうやら至急呼ぶ様に命令された様だ。
「梁。」
歩き出した梁に、緋蓮が声を掛ける。
「…戻ったらさっきの話の続きをしよう。」
梁はそう返して、閃の開けた扉を潜る。
そして一路、屋敷の奥から繋がる離れへと向かった。


離れの一室。王朝時代の屋敷を模した部屋。
飾り窓から夕焼けの赤い光が降り注ぐ部屋で、竜風は座って待っていた。
部屋がノックされ、返事を待たずに開かれる。
現れた梁は、虚ろな目をしていた。
「来い。」
竜風の短い命令に、梁は扉を閉ざし、足を進める。
そして竜風の目の前に膝を付いた。
…次の瞬間。
竜風は組んでいた足を解き、前屈みになると、梁の前髪を掴み、無理矢理顔を上げさせた。
「お前が次に従う相手は誰か、分かっているな?」
「……はい。」
痛みと恐怖に表情を変えることなく、梁ははっきりとした声で答える。
その返事を聞くと、竜風は前髪から手を離し、埃を払う様に振った。
「俺はお前が陽緋兄ちゃんや緋蓮に気に入られていたからここまで育ててやった。本来お前は娼館行きか、ドブに捨てられてたんだからな。その事を忘れるな。」
「…重々、承知しております。柳老爺。」
生え際に伝わるチリチリとした痛みと、刺し殺さんと言わんばかりの視線を向けられても、梁の表情はぴくりとも変わらない。
竜風は蔑む様な目で彼を見ていたが、ふん、と鼻を鳴らすと肘掛けに肘を付き、そっぽを向いた。
それが用事の終わりだと言う合図なのを知っていた梁は、一礼し、部屋から去る。
その後ろ姿に、竜風は二度と目をやる事はなかった。


柳竜風は、梁を嫌っている。
それが何故なのかは誰にも分からない。
もちろん、梁自身にも。
生い立ちの所為なのか、性格的な物なのか。
梁は竜風から様々な暴力や陵辱を受ける度にそれを問い続けてきた。
だが、その答えが出る事はなく、代わりに梁は一つの事を覚えていた。
自分の心を殺し、自分に向けられる危害を、自分の事と認識しないという術。
やがて優しく、引っ込み思案な彼は、感情を押し殺し、笑顔も、冷ややかな表情も、意のままに作り出せる、“百面相”になっていた。


「梁。」
緋蓮の部屋に戻った梁を、ベッドに座って典本に目を通しつつ待っていた緋蓮が迎える。
「大丈夫?何もされてない?」
「ああ。少し話をしただけだ。」
梁はそう言って、笑う。
その表情に、緋蓮は怪訝な顔を浮かべた。
「…顔色悪いよ?」
「そう?」
「うん。凄く。」
緋蓮は典本を置き、腰を上げると、梁に歩み寄る。
そしてほっぺたをむに、と摘んだ。
…人の体温とは思えない、ひんやりとした感触が指に伝わった。
「…大丈夫だ。」
梁はその手を払うと、緋蓮から距離を置く。
「ただ、俺が誰に従うべきか指示をされただけ。俺は紫鱗曾の一員として緋蓮に従うし、お前は組織と柳家の当主として周りを引っ張っていかなきゃならない。そういう話をしただけだよ。」
「……。」
緋蓮は疑う様な目を止めない。
梁も、光を失った目で、澄ました顔をしたままだ。
時間はまもなく20時を超える。
継承の儀は、明日。
明日になれば、全てに決着が付き、この言い合いも無意味な物となる。
「緋蓮。寝よう。明日お前は準備に時間掛かるだろ?」
「…まだ早いよ。」
「明日4時起きだろ?俺も設営とかあるし、今日は寝る。」
「まだ話は終わってない。」
「終わってるよ。…じゃあ、おやすみ。」
緋蓮の言葉を悉く切り捨て、梁はくるりと踵を返した。
「梁!」
彼の呼び止める声も、暖簾に腕押し。
バタンと音を立てて、扉が梁の姿を飲み込んだ。
「……。」
残された緋蓮はしばらくその場に立ち竦む。
その目に、怒りの感情を宿して。

「俺は、諦めないよ。梁。」

そう呟いて、彼は再び、典本に向き合う。

紫鱗曾、そして柳家の全てを決める、絶対的法典に。

「絶対に、梁も当主にするからね。梁は…俺が守るから!」
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川野麟&叶助

Author:川野麟&叶助
・川野麟(小説・ブログ担当)
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・叶助(イラスト・twitter担当)
二次元に生きたい

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