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伊梁。
紫鱗曾の創設から組織を支えてきた貿易事業を取り纏める社長。
ある者は仏と称し、ある者は鬼と称する。謎に包まれた褐色肌の百面相。


マレーシア。クアラルンプールにある空港。
中国から飛んできた一機の自家用機から、梁は乗降用タラップに足を掛けた。
「湿気が凄いな。」
手扇で風を送りながら、彼は息を吐く。
早朝に屋敷を出て、空港から自家用機で飛び、着いた時刻は朝の9時。
これから彼は3つの商談をこなすべく、マレーシア、インドを梯子する予定になっている。
「すぐに迎えが参りますが…、機内でお待ちになりますか?」
「いや、いい。これぐらい我慢するさ。」
秘書の問い掛けにそう答えて、梁は機外へと歩き出した。
そして数分後にやってきた入国審査員と軽く問答を交わし、手続きを済ますと、その背後に控えていた男に声を掛ける。
「行くぞ。」
そう言って、梁は空港の外へと歩き出した。

紫鱗曾の貿易部は、繊維と鉄鋼を主に取り扱う商社だ。
…だが、その顔は表向きで。
本当の姿は、人の精神や肉体を狂わせる薬を取り扱う闇業者。
中国だけに止まらず、アジアやヨーロッパにも拠点を持ち、健全企業として名を馳せながら、年々裏事業でも利益を延ばしている。
本来は紫鱗曾を纏める一族である柳家が代々社長を担ってきたのだが、梁は初めて異なる出自の者としてこの会社を纏めていた。

男の案内でやってきた空港の到着ロビーに、二、三人の男が待っていた。
握手を求めてくる一人に、梁は口元だけ笑みを浮かべてそれを返す。
そして自分が連れてきた部下と共に、男達の用意した車へと乗り込む。
…その瞬間から駆け引きは、既に始まっていた。
「伊総経理。本日は遠いところわざわざお越しいただき、ありがとうございます。」
親しげに話しかけてくる男は、今回一つ目の取引先である洋服工場の社長であった。
都心から離れた土地に工場を立て、主にアジア向けに製品を輸出する会社で、最近繊維部門に大口の取引を申し込んできたのだ。
更に是非社長に会いたいと進言してきた挙げ句、社長直々に迎えまでするという、異例の対応までしてきた。
普段、梁は普段、会社の表に立って仕事をする事は少ないのだが、あまりにも積極的なアプローチにこうして赴く事にしたのである。
「大口の取引をしていただいてますし、わざわざ社長にお出迎えいただけるともなれば、邪険には出来ませんので。」
梁が正直に伝えると、相手の社長は更に笑みを深くした。
「いやぁ、お話しをした時はまさか本当にいらしていただけるとは思いもしませんでしたよ。お忙しいとお聞きしますし、何より…お若いですし。」
毎日大変でしょう?と、そう笑う彼の目は、梁の足元を見る様なもので。
もちろん梁もそれに気付いていたが、涼しい顔でこう言ってのけた。
「そちらも一介の会社社長となるにはお若いお年でしょう?…きっと貴方を支える方々も有能なのでしょうね。」
「はは。貴方の下にいらっしゃる方々に比べたらまだまだですよ。伊社長。…いや、紫鱗曾頭子。」
社長の一言に、車内にピリッとした空気が流れる。
梁の傍らにいる部下達はじろりと相手社長を睨み、相手の社員達も緊迫した面持ちで梁達紫鱗曾のメンバーを見返す。
紫鱗曾はアジアを中心に活動拠点を持っている所為か、アジア周辺に敵対組織が多く存在する。
その為、特に同業の多い東南アジア圏に出張する際は細心の注意を払い、正体を明かさない様にして向かうのだが、どうやら今回は既に梁達の会社の実態を把握してしまっている相手らしい。
梁はしばらく表情を変えなかったが、目を閉じると、一息短く息を吐く。
「今その名を言う事に、意味はありますか?」
そう言い放った梁からは、見た目の若さや風貌からは想像も出来ない威圧感が漂い。
「……。」
その場にいた相手の会社の者全員を一瞬黙らせるには十分な迫力を醸し出していた。
まるで鬼の様でもあり、牙を剥く獅子の様でもあるそれは、彼が2万人規模の大組織を纏める人間である事を如実に示していた。
「忠告しておきますが、不用意にその名は言わない方がいいですよ。」
梁は口元に笑みを浮かべて、そう続ける。
「いつ、どこで、誰が、聞いているか分かりませんので。」
そう言って、彼は軽く首を傾げて笑う。
細められた目の向こうの感情は読めない。
だが、彼と向かい合って座る相手に、相応の恐怖心を与えるには、効果は十分過ぎた。


マレーシアでの商談を終えて、すぐ様飛行機に乗ってインドへ。
目的地に到着するなり、待っていた現地の部下と合流して、以前から付き合いのある縫製会社と、会食も兼ねた打ち合わせ。
更に場所を移動して、今度は薬関係の取引を担当している部下から、近況報告を受ける。
その全ての場で彼は質の異なる表情を駆使した。
時には人付き合いの良さそうな好青年。
時には一瞬の隙もなさそうな敏腕ビジネスマン。
時には──情け容赦のないマフィアのボス。
「ご苦労。下がれ。」
「はっ。」
部下からの月次の報告を受けて、梁は彼を労う言葉を口にした。
部下は軽く頭を下げると、梁の前から立ち去った。
「この調子で行けば、ここ一体の薬市場に邪魔は消える…か。」
梁は連れてきた部下だけになった部屋の中で、そう呟く。
「老爺竜風もあちらで喜こばれるでしょうね。」
「……。」
部下の言葉に、梁は一瞬沈黙した。
だが、すぐに「そうだな」と言って、時計に目をやる。
時刻は18時。そろそろ、自分の拠点に戻る時間であった。
「その前に、緋蓮に報告が先決だ。…帰るぞ。香港に。」
そう言って、彼は腰掛けていた椅子から立ち上がるのであった。
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Author:川野麟&叶助
・川野麟(小説・ブログ担当)
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・叶助(イラスト・twitter担当)
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